フォーカシング

茂木健一郎著 『脳と心の整理術』より

僕は二十代から、ときには歩きながら、ときにはお風呂に入りながら、定期的にフォーカシングを行うことで、心のメンテナンスをしています。メンテナンスが終わったら、メンテナンスの対象になった記憶は忘れてしまって構いません。それらはもはや解決済みになっているからです。
 自分の中で気にかかっていることは、今と過去を結ぶタイムマシンのようなものです。
 脳は、現在の経験と過去に起こった様々な出来事を結びつけようとしています。無意識からのシグナルを拾いあげ、過去をもう一度思い出すことで、過去の嫌だった思い出を忘れ、新たな現在を始めることができます。
 実は、「これが気がかりだ」とすぐに意識かできるものよりも、「原因がなんだか分からないけど、なんとなくもやもやと気にかかる」ことのほうが大きな問題です。すぐに思い出せないのは、自分が知らないうちに無意識の中であるものに支配されているからです。
 その状態は、自分が過去から自由になっていない、過去を忘れることができていない証拠です。
 無意識にあるものをどうやって意識かするのか。それは繰り返すようですが、きにかかっていることを入り口にして、自分の無意識を探索していくことです。時間がある時にゆっくりとやるのがいいでしょう。

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フォーカシングは、心の中の引っかかりに対して答えを出す物ではありません。物事の原因を突き詰めて考えることと、フォーカシングは別のものなのです。
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フォーカシングは、それら答えの無い問いを整理して、散らかってしまっている脳の中をスリムでしなやかなものに変えてくれるのです。脳の中のひっかかりが整理できていない人は、自分でもどのような感情が脳の記憶の中に隠れているか分からないので、ときとしてその散らかった状態のものを他人にぶつけてしまうことがあります。

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生きていく上で、負の感情に支配されてしまうことはあります。そのような時、大抵はその負の感情に神経を集中させてしまい、その背後にある本当に自分が気にかかっていることに気がつきません。
 足の裏の米粒みたいに、きにかかることには十分に注意を向けて、注意の達人になることが大事です。それがやがては自分の生きる力になるからです。

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未来は何を持ってくるか分かりません。未来は誰にとっても、想定外のものを運んできます。想定外のことが起こるからこそ、人生が変わるのです。
 しかしここに至ってもまだ、「そんなことはない。私の人生は想定内のことしか起こっていない」と思う人がいるかもしれません。そう思ってしまう要因のひとつには、脳はどんな状況になってもすぐに適応してしまう働きを持っていることが挙げられます。
 現在の自分の環境は、本当は一年前には想像もできなかった光景であるはずなのに、脳の適応の速さによって、あたかも「今のこの光景は一年前にはだいたい予想がついていた」と脳が思い込んでしまうのです。たしかにそう思い込んでしまうと、仮に予想がつかないような出来事が起こっても、「これは前から想定していたことの範囲を超えていないことだ」と思ってしまうかもしれません。「人生は予定調和でしか進まない」「結局、自分の未来は今の延長線上にしかないんだ」、そう思ってしまうわけです。
 しかし本当はそうではありません。誰にとっても今の光景は一年前には想像できなかったものであり、それは一年後に自分の周りにどういう光景が広がっているかを、今の僕らが具体的に想像できないのと同じなのです。
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